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身体を通して世界と出会う

  • 執筆者の写真: contact no wa
    contact no wa
  • 8月10日
  • 読了時間: 9分

更新日:8月12日

― Simone Fortiから受け取ったインスピレーション


① はじめに


身体を通して世界と関わること。


そして、即興を生涯にわたって探究し続けること。


そのように身体と世界を見つめ続けた芸術家・振付家・ダンサー・教育者のシモーヌ・フォルティ(Simone Forti, 1935–2026)が、ロサンゼルスで91歳で逝去しました。


多くのダンサーやアーティストが、その死を悼み、彼女への感謝と思い出を語っています。


私自身がシモーヌ・フォルティのワークに初めて強く惹かれたのは、CIを始めてまだ数年も経っていなかった2016年末から2017年初めに、Karen NelsonとNora Hajosの新年ワークショップに参加したときでした。シモーヌを大きなメンターの一人として敬愛するNoraのワークを通して、私はシモーヌ・フォルティという存在と、その身体へのまなざしに深く興味を抱くようになりました。


その中でも、私にとって特に新鮮だったのが、Logomotionという実践でした。


"Logomotion is an improvisational dance narrative form in which movement and language spontaneously weave together to explore thoughts and feelings about the world."


Logomotionは、動きと言葉がその場で自然に織り合わさりながら、世界について感じていることや考えていることを探っていく、即興ダンスの実践です。


身体が動き、言葉が生まれ、その言葉がまた身体を動かしていく。その往復のプロセスは、当時、大学院で研究に向き合う日々を送っていた私にとってとても新鮮で、身体と思考、そして想像力が自然につながっていくような感覚がありました。


また、Noraのワークでは、自然の中へ出かけ、植物や風、水の流れをじっくり観察し、その質感や動きの印象を自分の身体を通して踊りへと変化させていく時間もありました。自然をただ真似るのではなく、自然との出会いを身体の中で味わい、それを即興へとつないでいく。その体験もまた、シモーヌの探究に深く根ざしたものだったように思います。


自然界と接しながら身体と向き合うこと。Crescent Rollを繰り返し味わうこと。そして、そこに流れる静かで飾らない姿勢。そのどれもが、私にとっては新鮮でありながら、どこか懐かしく、深く心に残るものでした。


Karen Nelson's New Year Retreat 2017, photo by Kwai Lam
Karen Nelson's New Year Retreat 2017, photo by Kwai Lam

② Simone Fortiとは


シモーヌ・フォルティは、イタリア・フィレンツェ生まれの芸術家、振付家、ダンサー、教育者です。21歳の頃からサンフランシスコでAnna Halprinに師事し、約4年間にわたり、即興や身体を通した探究に深く触れました。当時、Anna Halprinは従来の振付の枠を超え、自然や日常の動き、人との関わりの中からダンスを見出そうとしており、その考え方はシモーヌに大きな影響を与えました。


その後ニューヨークへ移り、John Cageをはじめとする実験芸術や前衛芸術の影響も受けながら、1960年代の前衛芸術運動の中心の一つであったJudson Dance Theaterに参加します。そして《Dance Constructions》(ダンス・コンストラクション) と呼ばれる一連の作品を発表し、ダンスを「振付を見せるもの」から、「身体そのものを探究する場」へと大きく広げていきました。


シモーヌが探究していたのは、身体が重力や環境、他者、そして自然との関係の中でどのように存在し、動くのかということでした。そのために彼女は、自然や動物たちを注意深く観察し続けました。重さや勢いがどのように身体に働くのか、動物たちはどのように動き、環境と関わっているのか——そうした自然の営みに耳を澄ませながら、身体が世界とどのようにつながっているのかを探究していきました。


歩くこと。 

立つこと。

支えること。 

観察すること。


——そうした日常的な行為を丁寧に見つめることで、身体への新たな気づきが生まれていきます。


彼女は、自然と身体とのつながりに新たな眼差しを与え、即興という営みの創造性を、他に類を見ないかたちで映し出してくれました。


彼女が私たちに残してくれたのは、作品だけではなく、「身体をどのように見つめ、世界と関わるのか」という視点そのものだったのではないかと私は感じています。



③お気に入りの本


シモーヌ・フォルティは数多くの文章も残しており、ダンサーや振付家であると同時に、優れた書き手でもありましたContact Quarterlyシモーヌ・フォルティ・アーカイブのリンクはこちらです)。


私自身がシモーヌ・フォルティという人に少し近づけたように感じたのは、彼女の著書 Handbook in Motion を読んだときです。この本は、私が持っているダンスの本の中でも特にお気に入りの一冊です。題名の通り、薄くて持ち歩きやすいので、時々バックパックに入れて、旅先や移動中に読み返しています。


本書には、彼女自身のダンスの歩みや Dance Constructions の制作過程、日々の出来事、身体や動きについての探究、そして文章やイラストが収められています。理論書というよりも、エッセイと日記のあいだのような、とても親密で温かい一冊です。


中でも、私が何度も立ち止まってしまうのが、次の一節です。


"I held a large grasshopper in my open hand. It swayed from side to side as we gazed into each other’s eyes. We sustained this alignment of sight through an exact correspondence in our movements, which created a certain resonance between us. We danced together like this for many minutes. I had just saved its life and we were very curious about each other."

-Handbook in Motion, pg.13


(日本語訳)

私は一匹の大きなバッタを、そっと開いた手のひらに乗せていました。私たちは互いの目を見つめ合い、そのバッタは左右にゆっくりと身体を揺らしていました。私たちは動きをぴったりと呼応させることで、その視線のつながりを保ち続けました。その正確な動きの一致は、私たちの間にある種の共鳴を生み出していました。そんなふうに、私たちは何分ものあいだ一緒に踊っていました。私はちょうどそのバッタの命を救ったところで、私たちはお互いのことをとても知りたがっていたのです。


CIを実践していると、どうしても人を対象に踊りを探ってしまいがちですが、この一節を読むたびに、私は「ダンスは人とだけ踊るものではない」ということを思い出します。


相手が人であっても、虫であっても、木々や風であっても、互いの動きを感じ、応答し合うことができる。そのような世界との関わり方に、私は深く惹かれます。私自身も、そのような身体の在り方をこれからも探究し続けたいと思っています。


④ Huddle


”Huddle", Loeb Student Center, New York University, 1969. Photograph by Peter Moore, Handbook in Motion, pg.58.
”Huddle", Loeb Student Center, New York University, 1969. Photograph by Peter Moore, Handbook in Motion, pg.58.

シモーヌ・フォルティDance Constructions の中でも、私が特に好きなのが Huddle(1960–1961)です。


動画でこの作品を観るたびに、「いつかCI仲間と一緒にやってみよう!」と毎回思うのですが、不思議とそのまま忘れてしまい、今でも私のBucket Listに残っています。


シモーヌはあるインタビューで、この作品の着想について語っています。ある夏、子どもたちのキャンプでリーダーを務めていた彼女は、皆で岩登りに行くことをとても楽しみにしていました。しかし当日体調を崩してしまい、自分だけ参加することができませんでした。その後、参加できなかったからこそ、その体験や想像が、後にHuddleへとつながっていったと語っています。


一見すると、Huddleは人が集まって肩を組み、その上を一人ずつ登っては降りていくだけの、とてもシンプルな作品です。しかし、そのシンプルさの中には、シモーヌが探究していた身体や関係性についての大切な視点が詰まっています。


Huddleもまた、他のDance Constructionsと同じように、ある身体感覚を実際に経験し、探究するための作品だったのではないかと思います。彼女は作品ごとに、それぞれ異なる身体の経験を生み出そうとしていたように感じます。


Huddleは、人の身体によって立ち上がる共同体の彫刻のような作品です。


一人では成立しません。


登る人がいて。

支える人がいて。

重力がある。


そのすべてが、絶えず関係し続けています。


そこには、「誰かが誰かを支える」という一方向の関係ではなく、支える人もまた他者によって支えられているという、相互の関係性があります。


そして私は、この作品の本質は「登ること」ではなく、「支え続けること」にあるように感じています。登る人は一人ですが、その下では何人もの人が重さを感じ、微調整を繰り返しながら、お互いを信頼し、静かに支え続けています。その姿は、CIを通して学んでいくsupport(支え合い) や weight sharing(重さを分かち合うこと) と深く重なります。


私はHuddleを見るたびに、支えること、支えられること、そのどちらもがダンスなのだということを改めて感じます。


Huddleにはさまざまな記録映像がありますが、私が特に好きなのがこの動画です。シモーヌ自身の言葉とともに、この作品の空気を味わうことができます。

⑤ Simone Forti とSteve Paxtonの対話


シモーヌ・フォルティは、コンタクト・インプロビゼーションを初めて “Art Sport”(アートスポーツ)と表現した人物としても知られています(詳しくは「CIようごしゅう」の「アートスポーツ」をご覧ください)。アートであり、スポーツでもある——このシンプルな表現は、今でも私にとってCIの本質をとてもよく捉えているように感じます。


実は、「コンタクトのわ。」のサブタイトル “Facilitating connections via my favorite post-modern art sport”. は、CIの仲間であり先輩でもあるRichard Kimのブログからインスピレーションをいただいたものですが、その言葉の源には、シモーヌの存在もあります。


また、CIで親しまれている Crescent Roll(クレセントロール/こちらも「CIようごしゅう」で紹介しています)にも、シモーヌの身体研究とのつながりを見ることができます。私自身は、この動きを繰り返し味わうたびに、彼女が探究していた身体への眼差しが息づいているように感じます。


最後に紹介したいのが、シモーヌ・フォルティと、CIの先駆者の一人である Steve Paxton との対談です。


数日前にシモーヌの訃報を知ったとき、私が真っ先に見返したくなったのが、この約1時間の動画(2016年、CalArts)でした。


英語での対話ですが、言葉がすべて理解できなくても大丈夫です。二人とも高齢であり、シモーヌもまた病とともに日々を過ごしていた時期だったこともあり、その会話にはとてもゆっくりとした時間が流れています。しかし、そのやり取り自体がまるで一つのダンスのようです。


会話の内容はダンスだけにとどまりません。コンポストの話になったり、自然や暮らしについて語ったり、ときには思わず笑ってしまうような場面もあります。長年にわたって築かれてきた二人の友情や信頼関係が、そのまま会話の空気として伝わってきます。


私はこの動画を見るたびに、二人は身体や踊りについて語っているというよりも、身体を通して世界とどのように付き合っていくのかを語り合っているように感じます。


もし時間がある方は、ぜひお茶でも飲みながら(または床にゴロゴロしながら)、二人の時間をゆっくり味わってみてください。




⑧ 最後に


私はシモーヌ・フォルティに直接会ったことはありません。


それでも、彼女が残した言葉や作品、そして彼女から学んだ人たちを通して、私は彼女の身体へのまなざしから多くのことを受け取ってきました。


彼女が私たちに残してくれたのは、作品だけではなく、「身体を通して世界と関わる」という一つの在り方だったのではないでしょうか。


これからも、そのインスピレーションを私自身の身体を通して大切に育みながら、私なりの探究を続けていきたいと思います。そしていつか、それを誰かへ自然に手渡していけたら、とても嬉しく思います。


ありがとう、シモーヌ。

Rest in Joy, Simone.


References:

Simone, Forti (1974). Handbook in Motion: An Account of an Ongoing Personal Discourse and its Manifestations in Dance.


Steffen, P. (2012). Forti on all fours: A talk with Simone Forti. Contact Quarterly Online Journal, 37(1), 9.



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